ソフトウェア開発とリーダーシップ
- はじめに
- 要約
- リーダーシップとは? 〜マネジメントとリーダーシップの違い〜
- なぜリーダーシップがソフトウェア開発において求められるのか
- リーダーシップを発揮できるようになるにはどうすればよいのか
- 終わりに
- 追記
- 参考資料
はじめに
この記事はただの集団 AdventCalendar PtW.2019の10日目の記事です。
昨日はInaさんのパターン部分一致の文字列検索 でした。
GoogleやSalesforceの世界を代表するIT企業のエンジニアには、技術力そのもの以上にリーダーシップが求められるし、実際の評価でもそのような項目を重視していると聞きました。(マネージャーに限らず)
確かにリーダーシップがあった方が良いのはわかりますが、なぜそれらがエンジニアに求められているのか、そもそもリーダーシップとは一体どういったもので、エンジニアが個々人がリーダーシップ発揮していくにはどうしたら良いのかについて調べてみました。
要約
- リーダーシップとマネジメントは同じではなく補完し合うものである
- 複雑な状況にうまく対処する(複雑な企業に秩序をもたらす)のがマネジメントの役割
- 役割は変化に対処することがリーダーシップの役割
- 変化の激しいIT業界ではリーダーシップが必要だし求められている
- リーダーシップには7つの段階がある
- リーダーシップを獲得するには自己の本質の認識が必要不可欠
リーダーシップとは? 〜マネジメントとリーダーシップの違い〜
リーダーシップと聞くとなんとなくイメージはできるが具体的な要素をあげていけと言われると困る人も多いのではないかと思います。
例えば、議論を引っ張ることであったり、的確に指示を出すことであったり、あるいはカリスマ性など個人の資質であったり・・・と人や場面においてリーダーシップと言われても様々な要素がありそうです。
またリーダーシップとは別にマネジメントという言葉もあります。
マネージャーがリーダーシップを発揮してくれないと嘆くかたもいるかもしれませんが、そもそもリーダーシップとマネジメントとは同じものではなく、相互に補完し合うものです。
ここではリーダーシップとマネジメントとは一体どのようなものでなぜ必要なのかを見ていこうと思います。
マネジメントとは複雑な状況に対処するためのもの
マネジメントとは大企業の出現によって生まれたもので、 複雑な状況をうまく対応するためのものです。
製品の品質や収益性などの重要な領域において、秩序がなければ企業を存続させることが困難になるため、複雑な企業においてうまく対応するために必要となります。
逆にマネジメントがお粗末だと、会社自体の存続そのものが脅かされることもありえます。
マネジメントにおいて行うことは以下のようなことがあげられます。
- 計画と予算の作成と資源の分配
- 立案した計画を達成するための組織作りと人員配置
- 統制および問題解決を通じて計画の達成を確実にする
リーダーシップとは変化に対処すること
リーダーシップの役割は変化に対処することです。
VUCAの時代とも言われているように近年のビジネス環境は競争と変化の激しさが増しています。
そういった外部環境の変化に対して、組織が変化し対応していく必要があります。
そうした状況においてリーダーシップというものが必要になっていきます。
リーダーシップにおいて行うことは以下のようなことがあげられます。
- 組織を変えるための方向性を決める
- 組織メンバーの心を1つにする
- ビジョンを伝え、理解することを助ける
- ビジョンを達成するために、動機付けを行い、メンバーを正しい方向へ導く
なぜリーダーシップがソフトウェア開発において求められるのか
ここまで読めばなぜアメリカを代表する巨大IT企業がリーダーシップを求めているかわかると思います。
ビジネス環境の中でも特に変化の激しいIT分野において、世界のトップを走り続けるには競合よりも素早く変化に対応していかなかればなりません。
ガートナーの調査によれば、2020年までに、チームのケイパビリティを変革していないCIO(Chief Information Officer: 最高情報責任者)の半数は、デジタル戦略に基づいたリーダーシップが確立されチームから外されることになると述べています。
またDevOpsの調査結果(LeanとDevOpsの科学)によると、ソフトウェアデリバリのパフォーマンスとリーダーシップには高い相関性があることを明らかにしています。
特にハイパフォーマーのチーム、ミディアムパフォーマーのチーム、ローパフォーマーのチームではリーダーシップの特性に顕著な差が見られ、リーダーシップをもつリーダーがほとんどいないチームがハイパフォーマーになる可能性はほとんどないと指摘しています。
リーダーシップを発揮できるようになるにはどうすればよいのか
ここまでリーダーシップとはどのようなもので、なぜ必要になっているのかについて説明してきました。
しかしリーダーシップがなんたるかを理解してもそれを発揮できなければあまり意味がありません。
次により優れたリーダーシップを発揮する人、リーダーとなるにはどうすればよいのかについてみていきます。
リーダシップには7つの段階がある
発達心理学の研究者によれば、リーダーの能力格差の原因は内なる「行動論理」すなわち、どのように周囲の状況を理解し、自分の権力や安全が脅かされた時にどのように反応するかによるとしています。
ハートヒル・コンサルティング パートナーのデイビッド・ルークとボストン・カレッジ キャロルスクール・オブ・マネジメント 教授のウィリアム R. トーバートはその行動論理には7つの種類に分類できること、調査から明らかにしました。
以下が調査から明らかになった7つの行動論理です。
- 他者利用型
- 利害調整型
- 専門家型
- 目標達成型
- 個人尊重型
- 戦略家型
- 改革者型
またこの調査では行動論理によって企業や個人のパフォーマンスに差が生じることも明らかになりました。
他者利用型、利害調整型、専門家型は特に平均以下のパフォーマンスと結びやすく、目標達成型よりも明らかに低く、イノベーションを続け、組織を変革していく能力を安定して示したのは、個人尊重型、戦略家型、改革者型の3種類であることが明らかになりました。
7つの行動論理
引き続き、7つの行動論理の詳細について見ていきましょう。
下記の表は「ハーバード・ビジネス・レビュー リーダーシップ論文ベスト10 リーダーシップの教科書」からの引用です。
行動論理 | 特性 | 強み | 調査全体に占める割合 |
---|---|---|---|
他者利用型 | どんな手を使ってでも勝とうとする。自己中心的で、人を操りたがる。「力こそ正義」 | 緊急事態や営業に役にたつ | 5% |
利害調整型 | 不可避の衝突を避けようとする。集団の規範に従う。現状打破には消極的。 | オフィス内の「接着剤」として機能し、集団の一体感を高める | 12% |
専門家型 | 論理性と専門知識を第一義におく。理性的に効率を求める。 | 個人としての貢献度は高い。 | 38% |
目標達成型 | 戦略目標を実現する。複数のチームをまとめて目標を達成される。マネージャーとしての責任と市場からの要求をバランスさせる。 | 管理職に向いている。行動志向であり、また目標志向である。 | 30% |
個人尊重型 | 人間と組織の様々な行動論理を統合させることができる。戦略計画と実績の差を埋めるために、独自の仕組みを考え出す。 | 起業やコンサルティングに向いている。 | 10% |
戦略家型 | 組織や個人の変革を生み出せる。短期的にも長期的にも、仲間との間で互いに問いかけや警告、弱点について指摘し合う。 | 変革リーダーに適任である。 | 4% |
改革者型 | 社会の変革を生み出せる。物質的な変革、精神的な変革、社会的な変革を総合的に進める。 | 世の中の改革を指導できる。 | 1% |
重要なことは、これら7つの行動論理の中で自分はどのような行動論理で活動をしているかを自己認識して、自ら次のステージへと進歩しようと努力することでリーダーシップを高めることができるということです。
自分らしいリーダーシップを求めて
7つの行動論理について分かったところで、今度は自身がそのステップを上がるために何ができるかについて見ていきます。
一人一人異なるリーダーシップ
ハーバード・ビジネス・スクール教授のビル・ジョージをはじめとする4名*1 は理想のリーダー像に共通するスタイル、特性、資質を描き出した研究は1つもないことを明らかにしました。
リーダシップには様々なスタイルがあり、誰かの真似をすれば得られるものではなく、ありのままの自分を表現できているときに得られるものであることを指摘しています。
そして自分らしいリーダーシップを発揮するためには「自らの本質とは何か」について理解する(あるいは理解しようと努力する)ことが必要です。
自らの本質を理解することでブレないリーダーシップを得ることができます。
つまり自己認識が自分らしいリーダーシップを発揮するために必要になるということです。
自らの本質を探るための問い
自分らしさを知るためには自分史を整理して、どのような経験が自身の信じる価値観や原則の基となっているか、特に起こった事実に対して、自身がどのように意味づけを行なっているかが、価値観や原則の基になっています。
自分らしいリーダーシップを獲得するために参考となる質問を「ハーバード・ビジネス・レビュー リーダーシップ論文ベスト10 リーダーシップの教科書」からの引用しました。
下記の質問を使い、自分の本質を理解し、またその本質が7つある行動論理のどれに則しているかを理解することで、これから自分らしさを持ちつつ、組織を動かしていくリーダーシップの獲得に役にたつはずです。
- これまでの人生を振り返って、自身がもっとも影響を受けたのは、どのような人物、あるいはどのような経験か。
- 自己認識力を高めるために、どのようなことを心がけているか。本当の自分はどのような人間か。本当の自分だと思えるのはどのような瞬間か。
- 自分の奥底にある価値観はいかなるものか。それは何に起因するのか。子供の頃と比べて価値観は大きく変わっているか。その価値観がどのような行動に結びついているか。
- 自分を動かす外発的な動機は何か、あるいは内発的な動機は何か。人生において、外発的な動機と内発的な動機をどのようにバランスさせているか。
- 周囲にどのような応援団がいるか。自分らしさを貫くリーダーシップを実現するために、応援団はどのように役に立っているか。視野を広げるためにチームの多様性を高めるにはどうすればよいか。
- 自分の生活態度は一貫しているか。生活のあらゆる場面、例えば職場、職場以外、家族の前、コミュニティの中で、いつも同じ人間でいられるか。そうれないとすれば、何が障害となっているのか。
- 自分らしくあることは、人生においてどういう意味があるか。自分自身であることでリーダーとしての能力が高まっているか。自分らしさを貫くリーダーであることで、何かを犠牲にしたことはあるか。その価値はあったか。
- 自分らしさを大切にしたリーダーとして成長していくために、今日、明日、そして今後1年の間に何ができるか。
また上記の質問以外ではマイゴールという書籍の質問リストもとても役にたちます。気になるかたは下記リンクも見てみてください
終わりに
今回はリーダーシップについてそれが何であるか、なぜ必要か、自分らしさを持ちながら獲得するにはどうすればよいかについて書いてきました。
リーダーシップを獲得する道のりは簡単ではありませんが、獲得しようと努力することで、辛いこともあれど、最終的に自身の人生をより豊かにできるものだと思っています。
今年のゴールデンウィークは終わってしまいますが、時間を見つけて自分を見つめ直してみようと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました😊
追記
過去の偉人と呼ばれる人たちが自身の経験と外発的な動機・内発的な動機を絶えず内省して、結果として偉業を成し遂げたり、リーダーシップを獲得した物語を知りたい人には あなたの人生の意味――先人に学ぶ「惜しまれる生き方」 という本がオススメです。
ビル・ゲイツが2015年のベスト書籍として選んだだけのことはあり、自身の人生を振り返る参考になります。